Atlessのアトラス

アート中心に思考したことを書いています。Atless GALLERYで作品を常設展示中。

神は省略にも宿る

今日もお疲れさまです。

 
前回のエントリーで、「神は細部に宿る」の偏った解釈のされ方について、書きました。
“細部は細かく描き込まなくてならない” という解釈です。
 
今回は、細部をあえて省略する重要性について、絵画作品に絞って書きたいと思います。
過去のエントリーでは「ディテールレベル、という考え方」という形でディテールの適性を段階で考えました。今回は段階ではなく、省略ありきでディテールを考えます。
 
まず、絵画作品で細部を描き込むことにより、“何が起きるのか” を把握する必要があります。
“何が起きるのか” を把握すれば、省略することで、“何を起こさずに済むか”  がわかるようになります。
 
 
細部を描き込んで起きる結果は、以下が主です。
 
・描かれた箇所の描写密度が増加する
・視点を集めるポイントになる
・細かく描かれた箇所を中心に、絵画全体が引き締まる
・モチーフをよりリアルに表現できる
 
挙げたものを見てみると、メリットばかりに思えますね。
 
では次に、上記の結果に対し、細部を描き込んで起きる “デメリット” を挙げてみます。
 
(1)描かれた箇所の描写密度が増加すると、“細部の説明”も増加する
(2)視点を集めたくない箇所が、ポイントになってしまう
(3)細かく描かれた箇所を中心に、他の箇所も細かく描き込む必要に迫られる
(4)“リアル” の考え方が固定される
 
 
まず(1)から見てみます。
 
細かく描く、ということは、細かく説明することになります。
たとえば、「人」を “観念的” に描きたいとします。
“観念的に描く” とは、個人を極力特定させず、「男性の老人」「少女」といった“ある程度までの共通概念” を描いていくことです。
“観念的な描き方” で作品を完成させるには、細部まで細かく描かないのが前提となります。
つまり、細部を描き込むほど、モチーフの説明が増えてしまい、上記のような表現の可能性を奪ってしまうリスクがあるのです。
 
 
次に(2)です。
 
“視点の誘導” を作品に意図的に設定する場合、細部の描き込みで設定が崩れるリスクが生じます。
細部の描き込みを優先してしまうと、描き込まれた場所は強調ポイントとなり、視線を誘導するからです。
視点を誘導する要素は、僅かな線やテクスチャや矩形も含まれます。それらが微弱な力で作用している時、描き込み過ぎによる強調ポイントが、それらの要素を打ち消してしまうこともあります。
 
 
次は(3)です。
 
ある特定の箇所を細かく描くと、そこに密度が生まれ、強い力を持ちます。
この強い力が全体のバランスを壊さないよう、別の箇所にも、細かく描いてバランスを取る必要に迫られることになります。
そうしてバランスをとるために細かく描いていくことで、元々あった目的が “バランスを取る” ことに替わってしまうリスクが生じます。
 
 
最後は(4)です。
 
ここで書いた “リアル” は、写実という意味です。
見えるままを、極力再現することです。
 
見えるままが細かく描かれる “リアル” はひとつの価値です。
見えるまま描き進めることは、この“リアル” のみがゴールとなるリスクを抱えます。
 
人によっては、この “リアル” 以外のゴールを考えることが重要になるのです。
 
 
 
以上、細かく描くことのデメリットを挙げることで、省略の可能性を考えてみました。
 
総じていえることは、「“細部は細かく描き込まなくてならない” という解釈」はひとつの可能性です。その細かさに行き着くまで、あるいは細かさの省略にも、多くの可能性が宿っているのです。
 
 
では、何かあれば教えてね!